はじめに

私が参画しているプロジェクトでは、今年4月から新たにアットウェアベトナムのメンバー2名が加わり、国境を越えたリモート開発体制がスタートしました。海外メンバーと協働するのは今回が初めてであり、私たちのチームにとっても大きな挑戦です。

本記事では、

  • 実際にどのように協力しながら開発を進めているのか
  • 海外メンバーと働く中で得られた気づきや学び

を紹介し、グローバルチームならではの面白さや課題、そしてそこから生まれる成長の機会をお伝えできればと思います。

チーム紹介と感じたこと

新たに加わったのは、エンジニア歴2年目のKさんと、1年目のJさんです。若手ながらも積極的に意見を出し合い、既存メンバーと密に連携しながらプロジェクトを進めています。

一緒に働いてまず強く感じたのは、KさんとJさん、2人の前向きな姿勢です。課題に直面したときも全力で解決策を模索し、積極的に提案する姿勢に、私たち既存メンバーも大いに刺激を受けました。

  • Kさんは、物事を冷静に整理しながら建設的に議論を進めてくれる存在。疑問や改善点を率直に提案してくれることで、より良い方向性をチーム全体で見つけられるようになりました。
  • Jさんは、利用者の視点に立って「もっとこうすれば使いやすいのでは?」とアイデアを出してくれます。チームに新しい気づきをもたらし、サービスの品質向上につながっています。

2人のこうした主体的な取り組みが日本側メンバーにも良い影響を与え、自然と議論が活発になり、チーム全体がよりポジティブな雰囲気になったと実感しています。

リモート協働の工夫

国を越えて働くうえでは、心理的な壁と地理的な壁の両方が課題となりました。

心理的な壁への工夫

直接顔を合わせられないことで反応が伝わりにくく、雑談が減ると関係性も築きにくくなります。そこで私たちは、Zoomの様なビデオツールを常時接続し、まるで同じ部屋で働いているかのような環境をつくりました。会話がなくても「隣にいる感覚」が安心感を生み、必要なときにすぐ声をかけられます。

また、作業の合間には雑談の時間を意識的に設け、文化や価値観といった一歩踏み込んだ話題にも触れることで、互いの理解が深まりました。

地理的な壁への工夫

日本とベトナムの間には2時間の時差があります。そのため、ベトナムメンバーがまだ出勤していない時間を、「彼らが業務を始める前の準備時間」として活用しました。想定される質問や必要な情報をあらかじめ整理しておくことで、合流後にすぐスムーズに作業を始められるようにしています。

一方で、日本メンバーの業務終了後の時間は、ベトナムメンバーが主体的に作業や振り返りを進められる時間として任せました。自分たちで判断し進める経験が増えることで、チームとしての自律性も高まっています。

工夫の成果

こうした制約は単なる不便さではなく、チームを強化する要因になりました。限られた時間を意識して準備や共有を徹底したことで、やり取りの精度が高まり、互いの自律性も育まれました。その積み重ねにより、距離を超えても同じ目的を見据える強固な協働体制が築けたと感じています。

言語・コミュニケーションの壁

ベトナムメンバーとの会話は基本的に英語で行っています(時には、私が勉強中のベトナム語で拙く声をかけることもあります)。言語が完全に共通ではないからこそ、誤解を防ぎスムーズに進めるための工夫が欠かせませんでした。

工夫したこと

視覚的に伝える

説明は文字だけでなく図を活用しました。UI設計ではワイヤーフレーム、API設計ではシーケンス図を用いて、共通理解を深めました。

AIを活用する

英語でのやり取りは、ChatGPTに添削してもらった上で投稿。細かなニュアンスも伝えられるようになり、大きな助けになっています。

小さなやり取りを大切にする

仕様確認やレビューだけでなく、日常的な雑談や挨拶も積極的に行いました。例えば、私が「シンチャオ(こんにちは)」と声をかけると笑顔で返してくれる。そんな何気ないやり取りが心理的な距離を縮め、本題の議論もスムーズに進むきっかけになりました。

目的を常に共有する

国境を越えても同じゴールに向かう仲間であることを意識しました。アジャイル開発のプラクティスに沿い、短いスプリントの中で検証とレビューを重ね、開発だけでなくコミュニケーションの改善も続けています。

こうした取り組みによって、言語の壁はあるものの、正確な理解とスムーズなコミュニケーションを保ちながら協働できる環境を整えることができました。

苦労した点

背景知識やアーキテクチャの伝達

最初に直面した課題は、KさんとJさんにプロジェクトの背景や全体像をどう理解してもらうかでした。参画するプロジェクトは、さまざまな方の尽力があり長く開発が続いてきました。しかし同時に、歴史的な経緯や積み重なった要件が絡み合った複雑な案件でもあり、一度にすべてを伝えるのは難しい状況でした。そこで、まずは直近数ヶ月で触れる機能やコンポーネントに絞り、図解やユースケースを交えてシンプルに整理して説明しました。

結果として、時間はかかりましたが少しずつキャッチアップしてもらい、今ではむしろ新鮮な視点からコードや設計を見直してくれる存在になっています。

若手メンバーの育成とマネジメントの難しさ

もう一つの課題は、若手メンバーをどう成長させるかでした。当初は質問しやすい雰囲気を作るためにペアプログラミングで私が主体的に進めていましたが、それでは自己解決力が育たないという壁に直面しました。

そこで方針を転換し、大きな課題を小さなタスクに分解して任せるようにしました。各タスクにはTODOと目標を示し、「考える時間と責任」 を与えることを意識しました。一方で、ドメイン知識が必要な部分は私がフォローし、一緒に解決策を導き出しました。

このアプローチは当初時間がかかりましたが、次第に自分の力でタスクを進められるようになりました。結果としてメンバーのスキルも飛躍的に向上し、チーム全体の生産性向上にもつながりました。

新たな視点と発見

オンボーディングを進める中で、二つの気づきを得ました。

一つは、短期的な効率よりも長期的な成長を優先する姿勢の大切さです。自分が先回りして課題を解決してしまえば、その場はスムーズに進みます。しかしそれではメンバーの力が育たず、結果としてチーム全体の成長も止まってしまいます。あえて時間をかけてでも挑戦の機会を与え、必要に応じて伴走することで、結果的にメンバーは自走できるようになり、チームとしても大きな成果につながることを実感しました。

もう一つは、新しい視点から学びを得られることです。若手メンバーの素朴で率直な質問や提案は、私自身が当たり前だと思い込んでいた部分を揺さぶり、理解を深めるきっかけとなりました。これまで無意識に進めていたことも、改めて言葉にして説明することで、自分の考えを再整理する機会になったのです。

こうした経験を通じて、私は「成果物を納める」こと以上に、チームが持続的に成長できる環境をいかにつくるかに意識を向けるようになりました。これは国境を越えたリモート協働に限らず、どんなチームにとっても共通する重要なテーマだと感じています。

おわりに

この数ヶ月を振り返ってみて強く感じるのは、「英語だから」「ベトナム人だから」という前提よりも、結局は新しい仲間を迎え入れるときの普遍的な課題と喜びに向き合っていたということです。 背景知識をどう伝えるか、どのように信頼関係を築くか、どうすれば主体性を引き出せるか。これらは国籍にかかわらず、新人をチームに迎えるときに常に直面するテーマです。

その一方で、国境を越えた協働だからこそ得られた学びもありました。文化や働き方の違いは、時に戸惑いを生みますが、同時に自分たちの固定観念を揺さぶり、新しい視点を与えてくれます。これは「海外メンバーと一緒に働く」ことの醍醐味であり、チームにとって大きな財産になっていると実感しています。

今回の経験を通じて、私自身が学んだのは「違いを乗り越えること」ではなく、「違いを力に変えること」 の大切さです。互いの価値観や強みを尊重し合いながら協働することで、より柔軟で強いチームが生まれる。そのことを日々のやり取りの中で実感しました。

今後もこの挑戦を続けていく中で、単にシステムを開発するだけではなく、チームが成長し続けられる環境を育むことを意識していきたいと思います。そして、その取り組みの延長線上に、atWareのミッションである システムで人々をしあわせにする を実現する姿があると信じています。

本記事が、これから国際的な開発チームで働く人々にとって一つの参考になれば幸いです。