かとじゅんさんをお招きし、2回にわたってEventStormingの一種である Big Picture Workshop を開催しました。

EventStormingは、近年注目されている、情報システムの概観を掴むための手法の一つです。ThoughtWorks社のTechnology Rader Vol.19では、当社の考える産業で採用していくべきテクニックの一つとして取り上げられました。

EventStormingでは、関係者が集まりシステムを取り巻く環境を大きな壁と付箋を使って互いに発表しあいながら、システム化の対象とシステムへの期待を共有していきます。

EventStormingの特徴は、システムを利用するにあたって発生するイベント(ドメインイベント)に着目している点です。イベントから始まり、それを時系列順に並べ、関連する利用者や外部システム、金銭の発生を洗い出していくことで、システムの全体像を掴むことができます。

今回は「かつてない図書館」を企画するというテーマで、10人程度の参加者が集まって、アイデアを出し合いました。

進めながら気づいたのは、議論を促進するような仕組みが随所に取り入れられていることです。 最初は発散させ後で収束させるようにしたり、全員が立った状態で全員と情報を共有しながら認識合わせをして、座って議論しないようにしたりと意見を言いやすい環境を整え議論の価値を高める効果を感じました。

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タイムライン強化 〜 ウォークスルー

最初は参加者が各自の思い思いのイベントを付箋に書いて、タイムライン(時系列順)に並べていきます。 イベントは、動詞の過去形で書くように決められていて、動詞の過去形で書くことで、イベントでないものを出さないように誘導したり、後の工程で「□□した」のが誰なのかに視点を誘導する効果があります。

イベントが出揃ってきたら、タイムライン強化を行います。タイムライン強化では、システムを利用する上で必要不可欠で価値の高い、重要なイベントにフォーカスしてその前後のイベントや関係のあるアクター、外部システムなどを充実させていきます。

次のウォークスルーでは、イベントの流れを言語化しながら、考慮不足や抜け漏れを発見していきます。まずこのイベントが起こって、次はこのイベントが起こる、というように、流れに沿って説明することで、あのイベントが抜けているのではないかということに気づきやすくなるそうです。

実際にやってみると、タイムライン強化の最中は気にしていなかったイベント同士の前後関係の違和感や足りていないアクターが明確になり、タイムラインを充実させることができました。

こうした考慮不足に早い段階で気づけるのは、EventStormingの大きな利点だと感じました。

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逆方向ナラティブ 〜 クロージング

ウォークスルーで拡充したタイムラインについて今度は逆方向からそのイベントを起こし得るのに、その前のイベントは適切かという視点を持ちながら言語化しました。

逆方向から読んでいくとそのイベントを起こすためにはその前のイベントは重要だがそれだけでは足りないといった、依存の不足が見つかりました。

また、エンジニアはお金の話が抜けがちということであえてお金について考えるフェーズが用意されていて、実際この辺りの話はいくら素晴らしいビジネスモデルやアイデアがあったとしても無い袖は振れないので、ステークホルダーが一同に介して認識合わせができるタイミングで一緒にお金について考えるフェーズを設けるのは合理的に感じました。

一通り終わったところで今回のワークショップの中でリスクになりそうな問題やその解決策を洗い出し共有しました。

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終わりに

ステークホルダーが一堂に会して曖昧な部分を明らかにし合意を形成するため、お客さんやチーム内での認識合わせなど、実際のプロジェクトで有用なテクニックだと感じました。

関係者と顔を合わせながら合意を得るという点で、同様に情報システムに対する期待を取りまとめる技法である、リレーションシップ駆動要件分析(RDRA)と似ている点がありそうです。それぞれの違いを見定めて、各プロジェクトに適した手法を取り入れられるよう理解を深め活用していきたいです。

今回のワークショップで体験した Big Picture EventStorming は、プロジェクトを立ち上げる際に使うものでしたが、他にもプロジェクトの別の場面で使える手法があるそうです。 中でも、設計者や実装者の観点に寄った Design Level EventStorming という技法があるそうで興味を惹かれました。

最後になりましたが、かとじゅんさんに感謝の意を申し上げます。

この度は貴重な体験の機会を作ってくださり、ありがとうございました。